サカマキガイ編:愉「貝」な仲間たち!
製作:前橋工科大学大学院 阿部 泰宜
第一回:サカマキガイ編

サカマキガイ
学 名 Physa acuta Draparnaud
和 名 サカマキガイ 逆巻貝
腹足綱
有肺亜綱
基眼(モノアラガイ)目
サカマキガイ超科 サカマキガイ科
<分布>
ヨーロッパ・イタリア原産で、明治から戦後にかけて水槽の清掃用として日本に移入され、逸出し帰化した種です。 ※解説1
現在では日本各地に分布しています。
<形態>
成貝で殻高約10mm、殻径約6mm程の巻貝で、殻は左巻きで質が薄く半透明となっています。
螺層は小さく円錐形で、殻頂は尖っており、体層が大きく、蓋はありません。 ※解説2
<生態的特徴>
同時的雌雄同体(※解説3)ではありますが、自家受精は出来ないようです。
卵生で、卵塊と呼ばれるゼラチン質の膜に包まれた20〜80個からなる卵を、水草や水路のコンクリート壁などに産みつけます。
産み付けられて間もないサカマキガイの卵。画像内の卵数は約80個ほど。
産み付けられてから1週間が経過した卵。発達が進むと卵塊の粘着性が弱くなる。
約1〜2週間ほどで稚貝が孵化し始め、1ヶ月が経過すると殻高6mm程にまで成長し、繁殖が可能となります。
産卵の最盛期は夏季ですが、冬季を除き繁殖可能で、寿命は約1年と言われています。
通常、外套膜と呼ばれる器官を通して、空気中から直接酸素を得て呼吸を行っていますが、
水中の溶存酸素を利用して呼吸を行うことも可能です。
そのため乾燥や悪質な水質に強く、水質階級IVの生物に属し、主に用水路や河川に生息しています。 ※解説4
有機物や腐食物、藻類などをエサとしています。
<類似種>
サカマキガイに似た種としては、サカマキガイよりもやや大型(殻高約25mm、殻径20mm)のモノアラガイや、
そのモノアラガイよりもやや小型(殻高約10mm、殻径6mm)のヒメモノアラガイ等が存在します。
ヒメモノアラガイ
ヒメモノアラガイの卵
これらの種は、同時的雌雄同体であること、卵生であること、
外套膜を用いて空気中から直接酸素を得ることが可能であること、
蓋がないこと等の点でサカマキガイと似た生態的特徴を持っていますが、
サカマキガイの殻が左巻きであるのに対し、
殻が右巻きで体層が良く膨らみ大きく、触角の形状が異なるため区別がつきます。
また、日本各地に分布していますが、サカマキガイよりも水質のよい水域に生息していることが多いようです。
<他の生物との関係>
- ヘイケボタルの幼虫の重要な餌となります。
- 肝蛭(カンテツ)(※解説5)などの吸虫類の中間宿主であるため、注意が必要です。
- 移入種であるため、在来種のモノアラガイやヒメモノアラガイ等の貝類と競合し、生息域を脅かす可能性があります。
しかし、それらの種以上に水質汚濁に強いという特性から、水質の悪い環境にも適応でき、
ある程度の住み分けが行なわれていると考えられています。
<備考>
ヘイケボタルの保護のために、本種は非常に重要な役割を果たしています。
ヘイケボタルは、ゲンジボタルと異なり、様々な貝類等をエサとすることが可能ですが、特に本種を好んで食します。
その理由として、サカマキガイに蓋がないため幼虫が捕食しやすいこと、
成貝でもそれほど大きくならないため、幼虫の体の大きさに合った捕食しやすい個体を見つけやすいこと、
などの理由が挙げられます。
また、モノアラガイ等他種との競合の危険性について調査を行なった結果、
モノアラガイ等に比べ、サカマキガイの繁殖速度が非常に速いことが判明しました。
このことが要因で競合等の問題に結びつき、これらの種の生息を脅かす可能性は捨てきれないことから、
生体の人為的な投与・逸出には十分な注意が必要です。
※解説1:
めざせ!環境エキスパート!生物多様性に関する移入種・外来種・帰化種編を参考にしてください。
※解説2:
用語貝説!貝類の部位名称&器官解説編を参考にしてください。
※解説3:
用語貝説!雌雄同体編を参考にしてください。
※解説4:
これは、一般的に水質が悪くなると溶存酸素(DO)が減少するためだと考えられます。
水質の悪化している河川や湖沼などでは、有機物量が増加し、それをエサとする微生物が繁殖しやすくなるため、
それらが呼吸を行う際には、水中の溶存酸素を大量に消費します。
他にも、水の濁りや着色などにより、水中に光が差し込みにくくなると、
水生植物や植物プランクトンの光合成が阻害され、酸素の供給が減少します。
このように、水質汚濁の進んだ水域では溶存酸素が減少することから、
エラ呼吸を行っている生物は活動が限定されることになり、
水中だけでなく空気中からも酸素を取り込むことが可能な生物である方が、
生存競争で有利に立つことが出来ると考えられます。
これらに関連して、用語貝説!水質階級編も参考にしてみてください。
※解説5:
用語貝説!肝蛭編を参考にしてください。
<水質耐性に関する実験>
pHを事前に調整したアンモニア水溶液と硝酸水溶液を用意し、
サカマキガイのアンモニア態窒素濃度と硝酸態窒素濃度に対する耐性調査を行いました。実験結果を図-1に示します。
実験結果より、アンモニア態窒素濃度では55mg/L以上、硝酸態窒素濃度では1200mg/L以上の水溶液中であっても
サカマキガイの4日間の生存を確認し、産卵も見られ活動も鈍らないことが確認されました。
さらにpHに対する耐性については、サカマキガイはpH3.73以下もしくは、8.51以上になると活動が鈍り始め、
2.31以下9.88以上になると1時間ほどで死に至ることを確認しました。

実験結果から分かるように、サカマキガイの生存限界の水質は極端に高いことが確認されました。
このような水質の存在は屋外の淡水域において稀であり、これらに起因する水質汚濁によって、
サカマキガイが死に至ることも稀な事例であると推測されます。
それらが複合的に重なり合った場合のサカマキガイの耐性など、
今後、サカマキガイが死に至る要因を総合的に調査する必要性があると考えます。
<食性に関する実験>
自然界にはどこにでも存在する活性汚泥をサカマキガイはエサとするのかを検証するため、以下のような実験を行いました。
縦6cm、横10cmの容器にサカマキガイ100匹と活性汚泥20mL(図-2)を入れ、10日間その様子を観察しました。
その結果、10日後には沈殿物の量が10mL(図-3)まで減少しました。
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| 図-2 実験開始時の活性汚泥
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図-3 試験開始から10日目の活性汚泥
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さらに、サカマキガイの糞(図-4)を観察したところ、与えた活性汚泥(図-5)と同様の色であったことから、
サカマキガイが活性汚泥をエサとしたことが確認されました。
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| 図-4 サカマキガイの糞の拡大写真
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図-5 活性汚泥の拡大写真
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したがって、サカマキガイは微生物相の上位に存在すると考えられます。
<有機物の分解に関する実験>
サカマキガイが淡水域の底層において有機物の分解に果たす役割を調べる目的で、
エサとサカマキガイ、また、サカマキガイのみを入れた容器を用い、双方のアンモニア態窒素濃度の上昇速度の計測を行いました。
実験結果を図-6に示します。
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| 図-6 アンモニア態窒素濃度の推移
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この結果から、サカマキガイは有機物の分解を促進させる働きを持ち、
ひいては、物質の循環を促進させる働きを持つのではないかと考えられます。
これらの実験結果をまとめますと、サカマキガイの生態的特徴として、
- 非常に高い水質耐性を持つこと
- 活性汚泥をエサとすることが可能であること
- 有機物の分解などにおいて、物質循環を促進させる役割を果たしていること
などが確認されました。
以上の生態的特徴から、サカマキガイは
『ホタルを出生させることを目的としたビオトープにおいてエサとして投与する』
ことは勿論のこと、
『環境条件の整っていない施工間もないビオトープなどであっても、
環境耐性の高いサカマキガイであれば、生態系の構築に寄与出来る』
のではないかと考えます。
参考文献
川の生物図典 編集:財団法人リバーフロント整備センター
株式会社環境技術研究所 EEL Daily News
前橋工科大学梅津研究室HP>阿部泰宜HP>愉「貝」な仲間たち!>サカマキガイ編