タツノオトシゴ編:愉「貝」な仲間たち!

製作:前橋工科大学大学院 阿部 泰宜

第十回は、なぜかタツノオトシゴについてご紹介いたします。

というより、私自身はご紹介できるような情報を全く持っていないので、
参考文献を大いに参考にさせていただこうと思っています。ご了承ください。

さて、皆さん。
タツノオトシゴと聞いて、やつらがどの生物群に分類されるか…?皆さんご存知でしょうか?
おそらく、以下の五択ほどが思い浮かぶのではないでしょうか。

  1. 硬い殻を持っています。『カニやエビ』の仲間:『節足動物門』。
  2. 硬かったり、フワフワしていたり。『サンゴやクラゲ』の仲間:『刺胞動物門』。
  3. 硬い体を持ちます、キモくてすいません。『ウニやヒトデ』の仲間:『棘皮動物門』。
  4. 殻があったり、体は柔らかかったり。『貝やイカ、タコ』の仲間:『軟体動物門』。
  5. すいません、実はフツーの魚なんです。『魚類』の仲間:『脊椎動物門』。

さて、正解は…、
タツノオトシゴは『脊椎動物門』に分類されます。つまり、フツーの魚と同じ分類ですね。
アノ形状で魚類というのだから驚きです。
そのため、16世紀のヨーロッパの博物学者たちは、この奇妙な生物を分類学上苦し紛れに、
カニとヒトデの間に特別な科を作って当てはめていた、なんていう話もあります。
ちなみに、日本では江戸時代まで『虫』として分類されてきたそうな…。
この生物が、当時の博識者たちを如何に困らせてきたかがうかがい知れます。

こんなに変わった姿をしてますしねぇ…。
  
種類もよく分かりません…。
上手く撮影するのも難しいです…。

というわけで、タツノオトシゴの学名・分類等は以下のようになります。

タツノオトシゴ属
学名:Hippocampus sp.
英名:sea horse

脊索動物門 Chordata
魚上綱 Pisciformes
硬骨魚綱 Osteichthyes
トゲウオ目 Gasterosteiformes
ヨウジウオ科 Syngnathidae
タツノオトシゴ属 Hippocampus

タツノオトシゴは英名で『sea horse』というんですね。
つまりは、『海馬』。
どこかで聞いたことのある名前だなーと思ったら、
脳の中で記憶を司る器官が、『海馬』と呼ばれていることに気づく方も多いはずです。
実は、記憶中枢の『海馬』は、タツノオトシゴに形が似ていたことから名付けられたそうです。
つまり、私たちの頭の中には、あんな変な形の器官があるってことですね…。

なんかいやです…。

そんなタツノオコトシゴは、世界に約30種、日本では7種程が確認されています。
その生息範囲は、日本では北は北海道、南は沖縄と非常に幅広く生息しています。
汽水域に生息するオオウミウマという種も存在しますが、
多くの種は、流れの緩やかな水深の浅い海辺の岩礁域や藻場、サンゴ礁などに生息しています。
アマモやサンゴ、海藻などに色や形を似せ擬態し、それらに尾を絡ませて流されないようにじっとしているため、
水中でタツノオトシゴを発見するのは困難です。
タツノオトシゴを入手するためには、一般的には海水魚ショップを利用します。
イバラタツやオオウミウマなら1,500円前後で購入できるそうです。

タツノオトシゴの体の構造はやはり独特です。
魚類でありながら、立って生活しているため、それに合わせた構造となっています。
通常の魚類とは異なり、腹ビレはないものの、耳のような胸ビレがあり、
その後ろについている穴が、エラになっています。
また、背ビレと尻ビレも存在し、背ビレと胸ビレを使いゆっくりと泳ぎます。
しかし、泳ぐのはあまり得意でないらしく、流速が速いと流されてしまいます。
尾ビレは退化し、ヒレとしての機能を果たしませんが、
大きく曲げることが可能なため、海藻やサンゴに巻きつくことが出来るようになっています。
進化の過程で、移動型の生活形態より定住型の生活形態を選択したようです。
体は鱗などに覆われているわけではなく、『骨板』と呼ばれる皮膚で覆われていて、
触ると堅めのゴムのような感触がし、見た目ほどは硬くありません。
この骨板は体を輪のように取り囲んでいるため、体輪とも呼ばれ、
種を同定する際のポイントにもなっていますが、外見は互いに似通っており、同定は難しいものとなっています。

タツノオトシゴは雌雄異体であるため、オスとメスが存在します。
オスの腹部には育児嚢という袋があり、腹部のカーブが緩やかなのがオス、
腹部が丸く膨れているのがメスと、外見上からの判別が可能です。

さて、『育児嚢』という言葉が出てきたことですので、タツノオトシゴの繁殖について触れてみたいと思います。
先ほどもお伝えしたとおり、育児嚢はオスに付いています。
そのため、タツノオトシゴの稚魚は、オスから飛び出ることとなり、
オスが出産している形にも見えるわけです。
しかし、実際には、交尾中にメスが産卵管をオスの育児嚢に差込み、卵を産みつけ、
その卵をオスが育児嚢で保護しているだけで、オスが一匹で産んでいるわけではありません。
繁殖期は春から秋にかけてで、育児嚢で卵を抱えているオスは腹部が膨れ、妊娠しているような外見となります。
孵化に要する期間は、種類や環境などにもよりますが、通常2〜3週間程かかり、
稚魚は孵化後もしばらくは育児嚢内で過ごします。つまり、タツノオトシゴは卵胎生です。
出産する時は、オスは尾で海藻などに体を固定し、体を震わせながら稚魚を産出します。
稚魚は小さいながらも既に親とほぼ同じ姿形をしていて、
海藻に尾を巻きつけるなど、親と同じ行動を出生してからすぐに行ないます。

タツノオトシゴが一回の産卵で産む稚魚の数は、数十〜数百匹とそれほど多いわけではありません。
産まれたての稚魚の大きさも5〜20mmと大きく、卵胎生という生態から考えても、

タツノオトシゴは割と生き残る確率の高い種であると考えることができます。
そのためか、タツノオトシゴが住んでいる海域には、彼らを好んで食べる天敵は少ないようです。
強いて天敵を挙げれば人間です。
タツノオトシゴは、タンパク質、脂肪、多種のアミノ酸を有効成分として含んでいるため、
男性ホルモンと同じような作用があり、滋養強壮剤として用いられているようです。
また、中国では、補腎(腎機能を強化する)作用があるとされ、慢性腎炎や腎不全、
老人の頻尿や尿失禁、夜間多尿などの治療にも用いられています。
全世界で一年に約二千万匹が捕獲され、漢方薬にされるなどの乱獲が進んでいることから、
ワシントン条約の付属書U(輸出入に許可証が必要というレベル)にタツノオトシゴが記載されてしまいました。
確かに漢方薬にされそうな姿形ですしねぇ(?)。

タツノオトシゴはあんな外見をしていますが、実は肉食性で、自然界では、
魚卵、小魚、カニ、エビなどの小型の動物プランクトンやベントスなどを口から吸い込むことによって捕食しています。
エサとするのは微細なプランクトンだけでなく、細い口吻のサイズギリギリの甲殻類でも積極的に攻撃し、
激しい吸引音をたてて摂食するなど、意外に獰猛な捕食者です。

しかし、基本的には生餌しか食べないため、冷凍エサや人工飼料にはなかなか餌付きません。
そのため、タツノオトシゴを飼育する上で最も重要なのは、エサの確保になります。
投入したエサが大きすぎたり、小さかったりしてもダメで、
また、タツノオトシゴがエサに気づくことが出来る範囲にエサを落としてあげなければならなかったりと、
餌付けはなかなかに大変です。
与えるエサとしては、小さい個体(体長2cm程)には、ブラインシュリンプの卵を買い、孵化させたものを与えますが、
孵化させた後に更に飼育し大きくしたもの(通称:パワーシュリンプ)を与えた方が、栄養価が高く良いとされています。
また、大きな個体には、イサザアミや淡水のエビを与えます。
このような生餌を常にキープできるかが、タツノオトシゴ飼育のカギとなっています。

また、エサの食べ残しも多いため、適度なエサの量の投与、残飯を処理してくれるような生物と同居させるなどして、
水質の悪化を防ぐことも必要となります。

しかし、タツノオトシゴは、他の魚よりも動きが遅いためエサを取られたり、ストレスを感じやすいことなどから、
基本的には他の魚との混泳には向いていません。
また、無脊椎動物であるエビやカニなどには捕食されることがあるため、同居は避けた方がよいでしょう。
さらには、イソギンチャクやサンゴなどの刺胞動物も注意で、
動きが遅く泳ぐ力が弱いタツノオトシゴは、一度捕まると、脱出するのが困難になってしまうようです。
お薦めなのは、ナマコ類、ゴカイ類、ヤドカリ類などの、残飯を処理してくれる生物たちです。

さらに、タツノオトシゴの飼育に考慮しなければならないのは、
タツノオトシゴの遊泳能力を考えた、水槽作りです。
タツノオトシゴは泳ぐ力が弱いため、流速は出来るだけ弱めにして、『止まり木』を設置する必要性があります。
この止まり木には、ヤギ類や海藻などが用意できればいいですが、
タツノオトシゴの体を傷つけないような素材であれば、市販の飾りサンゴやプラスチック製の海藻でもいいようです。

さて、タツノオトシゴ特有の病気には、『転覆病』と呼ばれる病気があります。
この病気は、タツノオトシゴの体内に細菌が入り、細菌の出すガスによって体にガスが溜まり、
潜ろうとしても潜れなくなる病気です。
感染力が強いため、水替えをするなどの処置が必要で、
止まり木を水面付近まで長く設置し、体力の消費を抑えることが出来るようにしておくといいようです。

また、体の一部が白くすれたようになった場合には、1〜2日で死んでしまう病気の可能性もあるため早急な対処が必要です。
この病気の原因の多くは、刺胞毒持ちのサンゴです。
この病気も感染力が強いため、病気が発覚したらすぐに感染したタツノオトシゴを隔離するなどし、
一緒に飼っているタツノオトシゴに感染するのを防ぐ必要があります。
対処としては、原因となっているサンゴを取り出し、ミクサジンゴールドで薬浴させたり、
エルバージュとアクアセイフを混ぜた物を綿棒で直接患部に塗り混む等の対処法が必要です。

生物の体調管理には普段からの観察が最も大切です。
しかし、タツノオトシゴの場合には常にほとんど動かず、
動いたとしても変わった動きをしているため、病気になかなか気づきにくいといわれています。
それでも、こまめな観察とエサの管理を行なうようにしてください。


・タツノオトシゴ属紹介

タツノオトシゴ Hippocampus coronatus
全長8cm程。他の種類より頭頂部の突起が太いのが特徴だが、突起が低い個体もいる。
また、ハナタツのように全身に海藻のような枝分かれした突起があるものもいる。日本各地の沿岸域に分布する。

ハナタツ Hippocampus sindonis
全長8cm程。全身に海藻のような枝分かれした突起があるが、タツノオトシゴにもこの突起を持つものがいる。
西日本以南の沿岸域に分布する。

サンゴタツ Hippocampus japonicus
全長8cm程。他の種類に比べて体表の凹凸が低い。北海道南部以南の日本沿岸から中国まで分布する。

イバラタツ Hippocampus histrix
全長15cm程。他の種類に比べて吻が長く、和名のとおりに背中側に短いとげがたくさんある。
太平洋とインド洋の熱帯域に広く分布し、日本では紀伊半島や伊豆半島でみられるが数は少ない。

タカクラタツ Hippocampus takakurai
全長15cm程。目の上と鰓蓋の下にとげが出ているので他の種類と区別できる。
また、頭頂部の突起は小さくて低い。西太平洋からインド洋にかけて分布し、日本では本州以南の沿岸域でみられる。

クロウミウマ Hippocampus kuda
全長15cm程。タツノオトシゴ類の中では唯一汽水域にも進入する。
太平洋とインド洋の熱帯域に分布し、日本では南西諸島に分布する。

オオウミウマ Hippocampus keloggi
全長20cmを超える大型な種。吻が長く、頭頂部の突起が小さい。
西太平洋からインド洋にかけて分布し、日本では伊豆半島以南の沿岸域でみられる。

参考文献
タツノオトシゴ - Wikipedia
海馬 - タツノオトシゴ専門サイト
地球(ちたま)防衛隊のほ〜むぺいじ2
鳥羽水族館公式ホームページ
健康とサプリメントの総合情報サイト

画像提供
環境技術研究所

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