肝吸虫&広東住血線虫編:用語「貝」説!

製作:前橋工科大学大学院 阿部 泰宜

第七回は、肝吸虫広東住血線虫について取り上げていきます。

<肝吸虫>
第一中間宿主はマメタニシ、終宿主は人、犬、猫、ネズミの肝臓の胆肝枝
病害性:成虫は胆管枝に寄生するため、胆汁のうっ血を起こし、黄疸や腹水などを併発する。
慢性期には肝硬変になる。

北大路魯山人がタニシを好物としていたことは有名ですが、
昭和34年、タニシを食したことから感染した肝臓ジストマ(ケルカリア幼生)の
肝硬変で76歳の生涯を終えたことも有名です。

実は、タニシの中でも「ジャンボタニシ」と呼ばれる
タニシ(スクミリンゴガイ)や、陸生貝には
肝吸虫などよりも危険性の高い寄生虫が寄生している場合があるのです。

それは「広東住血線虫」と呼ばれる寄生虫で、
成虫はドブネズミやクマネズミなどの肺動脈内(心臓から肺にいく血管)に寄生する体長22〜23mmの線虫です。
肺動脈内に産み落とされた虫卵は、肺の毛細血管内で孵化し幼虫になり、
肺胞から気管、食道、胃、腸を経て糞として外界に出ます。
この幼虫が中間宿主に経口的あるいは経皮的に入ると、体内で発育し感染幼虫になります。
これをネズミが食べると肺動脈内で成虫になります。
ヒトが幼虫に感染した中間宿主を食べると、脳や脊髄の血管や髄液の中に寄生し、
髄膜脳炎の症状を起こしますが、幼虫自身は成虫になることなく死滅します。
中間宿主として最も重要なのはアフリカマイマイ(東南アジアや沖縄、小笠原、奄美大島等に生息する大型のカタツムリ)で、
その他数種のマイマイやナメクジが中間宿主になります。
また、アジアヒキガエルなどのカエルや淡水産のエビ、ジャンボタニシなども感染源になります。
主として口からヒトの体内に侵入した幼虫は、胃や腸の壁から血液やリンパ液により全身に回り、
やがて脊髄や脳などの中枢神経系に集まってきます。
そして、幼虫が脊髄から脳に侵入すると
好酸球性髄膜脳炎(白血球の一種である好酸球の著しい増加を伴う髄膜炎及び脳炎)を起こします。
激しい頭痛、発熱、顔面麻痺、四肢麻痺、昏睡、痙攣、神経異常などの髄膜脳炎の症状が
約2週間ほどの潜伏期(幼虫が体内に入ってから症状が出るまでの期間)の後に出現すると言われています。
2000年6月には沖縄で、日本で初めての死亡例が報告されています
なお、特効的な治療法はなく、治療の主体は対症療法しかありません。
カタツムリやナメクジ、タニシ、カエルなどを生で食べてはいけません。
火を通せば安全ですが、東南アジアなどこの病気が多い地域ではこれらのものを口にしないほうが安全です。
ナメクジがよく付くキャベツやレタスなどの生野菜は、しっかりと洗ってから調理してください。
ナメクジが通った経路にはナメクジの粘液が残っていますので、そこに寄生虫が付着している可能性があるためです。
また、カタツムリやナメクジ、それにカエル等にはむやみに触れないこと。
このようなものに触れた後には、よく手を洗うことを習慣付けるようにしてください。

寄生虫はその名のとおり、宿主に寄生して生きているわけですので、
通常、宿主が死ぬと寄生虫自身も死んでしまうわけなのです。
そのため、宿主に大きなダメージを与えない程度に
栄養をもらい細々と生きている寄生虫が多いと、以前ご説明したことがありました。
しかし、この「広東住血線虫」の場合は宿主(人の場合)の脳に侵入し、
宿主が死に至るまで活動(脳を食べる)を続けます。

この場合、広東住血線虫は、脳に侵入した時点で外に出ることができず、繁殖には不利になります。
さらに、宿主が死んでいるため、また新たな宿主を見つけるためには、
自身がある程度の移動能力を持ち合わせている
か、
死んだ宿主を捕食する生物が現れるまで、ジッと待てるだけの体力を持っている
ことが必要となります。
しかし、宿主がどんな場所で死ぬのかは不確定です。
もし、宿主が生物に乏しい地で死んでしまったとしたら、
この寄生虫は、次の宿主を見つけることが出来ずに死んでしまうことでしょう。
そう考えると、広東住血線虫のこのような行動は
繁殖に有利な環境を選択する、という一般的な生物としての本能から逸れている
ようにも思われます。

…これは、1つの仮定ですが、
広東住血線虫は生物としての本能より、
脳の味を優先させる「グルメ」なのかもしれません。コワァ…。

参考文献
http://www.net.systemk.co.jp/~kawanina/tansui/tanisi/tanishi.html
http://www.agri.pref.kanagawa.jp/suisoken/naisui/news/kisei.htm
http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/5f/kanton.html

前橋工科大学梅津研究室HP阿部泰宜HP愉「貝」な仲間たち!用語「貝」説!肝吸虫&広東住血線虫編