ルシフェリン・ルシフェラーゼ・ATP編:用語「貝」説!

製作:前橋工科大学大学院 阿部 泰宜

第九回は、蛍の発光に関連する、ルシフェリン・ルシフェラーゼ・ATPなどを解説していきたいと思います。

とにかく、何のことだかよく分からないタイトルになっていますが、
第九回・用語「貝」説!は、貝と重大な関係をもつ「ホタル」に関する解説です。
具体的に言えば、「ホタルはどうやって光っているんですか?」という疑問にお答えしていく話となっています。
今回はホタルの発光の原理について、出来るだけ分かりやすい形でご説明していきたいと思います。

目次
1.ホタルについて
2.発光の種類と原理
3.ホタルの発光について
  3−1.ルシフェリン・ルシフェラーゼ・ATPとは?
  3−2.ホタルの発光の仕組み
  3−3.発光の意図とその利用方法



1.ホタルについて

皆さん「ホタル」に関してどれだけのことをご存知でしょうか?
実は、一般にはなかなか知られていないホタル常識があったりするのです。
まずはホタルを知ることから始めていきましょう。

そもそも「ホタル」とは
 動物界
 →節足動物門
  →大顎亜門
   →昆虫綱
    →有翅昆虫亜綱
     →甲虫目(鞘翅目)
      →カブトムシ亜目(多食亜目)
       →ホタル科

に属する生物を言います。
つまり、なんとなくカブトムシに近い…と…。
う〜ん、納得できるような、できないような…。
で、ヘイケボタルやゲンジボタル等の種は前述に続いて、
→ホタル亜科
→ホタル属
と分類されています。
ちなみに、オオマドボタルという種は、
→マドボタル亜科
→マドボタル属
に分類されるなど、ホタル科にも様々な種が存在します。

それでは早速ですが、ホタルに関するまめ知識をご紹介していきましょう。

ホタルに関する意外な事実:その1
・ホタル全種が、成虫になってからも発光するとは限らない!

現在日本には44種、世界には2000種程いるとされています。
孵化前から発光する種、幼虫時には発光するが成虫になると発光しない種、
また、成虫になってから光るものとそうでないものに分かれるなどという種も存在します。
(注:ホタル科の幼虫は全種発光するそうです)
しかもほとんどの種が昼行性であるため、成虫になってからも発光するホタル種は全体の半数以下であり、
ヘイケボタル、ゲンジボタル、ヒメボタルなどの限られた種だけでしか、発光をしっかりと確認するの困難だそうです。

ホタルに関する意外な事実:その2
・水生のホタル幼虫は極僅か!

幼虫時に水の中で過ごすホタルは、ヘイケボタル・ゲンジボタル・クメジマボタルなど極僅かの種であり、残りの種は全て陸生のホタルです。
つまり、ホタルのほとんどの種が陸生ということになります。
「ホタルが生息するには綺麗な水と…。」
などという世間に広がる決まりきったお言葉は、様々な意味で核心を掴んでいません。
ホタル通になりたい方は、ぜひともご注意を。

ホタルに関する意外な事実:その3
・東日本と西日本では、同じ種のホタルでも違いが!

これは割と有名な話かもしれません。
東日本のゲンジボタルは、発光間隔が約4秒であるのに対し、
西日本のゲンジボタルでは約2秒と、発光間隔に違いがあります。
その境となっているのは、フォッサマグナの西縁をなしている「糸魚川〜静岡構造線」であると言われていて、
その地形的な特質から、生物を隔離する壁となっています。
その境界付近である、新潟・長野・静岡には発光間隔が約3秒のゲンジボタルなども存在し、
それらのゲンジボタルを他の生息地に持っていっても、発光間隔は同調しないことなどから、
同種であっても、種の分化(亜種や型の発生)が進んでいることが考えられています。
さらに、発光のピークとなる時間にも違いがみられ、
東日本のゲンジボタルは、19時45分にピークを迎え、
西日本のゲンジボタルは、20時30分にピークを迎えるそうです。
(注:この調査がどのよう条件下で行なわれたのか、具体的にいえば、周囲の暗さはどうだったのか疑問が残ります。
東日本と西日本では、日が暮れる時間にズレが生じると思いますし…。
…もしかしたら、種としての違いが証明された結果ではないのかもしれません。)
…ちなみに、
私は、地域的な遺伝的特性を守ることに対し強い必要性を感じています。
残念ながら、現時点では他地域のホタル同士の交配よってどのような影響が出るのかという確かな結果は得られていませんが、
他地域のホタルを放すという行為等は出来るだけやめてほしいと考えています。
それでも他地域のホタルを放す場合には、それなりの覚悟が必要であるということを忘れないようにしてください。

ホタルに関する意外なこと:その4
・ホタルは「匹」ではなく、「頭」で数える!

……。
…あー、これは最大級に意外です…。
私、ずっと間違って使っていたようです。
だって、昆虫ですよ!?虫ですよ!?
そいつらが、ライオンや象と同じ扱いですよ!?
信じられません…。本当なのでしょうか…?

実は、「頭」という数え方はホタルに限ったことではなく、昆虫類全体にいえることだそうです。
つまり、トンボも「頭」、チョウチョも「頭」、アリですら「頭」です。
一般的なイメージ的としては、体の大きな動物に対して使う数詞ですが、
人間にとって、希少価値や意味のある生物に対しても使われるそうです。

…う〜ん、
昆虫、そんなに希少価値あるかなぁ…。(注:昆虫綱は、動物界において最大の多様性・構成種数を持っています)

(注:ホタルの専門家の方々でも「頭」をお使いになっている方は、ほとんど…というか、いないらしいです…。)



2.発光の種類と原理

さて、続いては「発光」に関するお話です。
発光に至る原理をご紹介していきます。

我々が光を発生させる方法は、大きく分けて2つの方法があります。
一つは、熱エネルギーを光に変換する方法です。
電気ヒーターや白熱灯
など、熱源部分が光るものをイメージしていただくと判りやすいと思います。
勿論、太陽から発せられる光もこれに当てはまります。
そのような方法で発生された光は白熱と呼ばれています。

もう1つの方法は、ルミネッセンスです。
こちらは外部から電子などによって刺激を受け、電子状態が変化することによって、
物体が一時的にエネルギーの高い状態(励起状態)となり、
その後電子状態が安定を取り戻すため、元のエネルギーの低い状態(基底状態)に戻ろうとしたときに、
その分のエネルギーの消費方法として、発光するという原理です。
ルミネッセンスは、電子を刺激する対象によって分類されていて、

などがあります。
これらのルミネッセンスは、白熱に比べエネルギーの大部分を発光に回すことが可能なため熱の発生を抑えることができます。
そのため、一般に冷熱と呼ばれることもあります。(メタハラは…)
これから紹介するホタルの発光は化学反応による発光ですが、自然界での発光はホタルのように化学反応によるものが多く、
生物の発光現象を特に、「バイオルミネッセンス」などと呼ぶこともあります。

「白熱」と「冷熱」を比較した場合、発光に要するエネルギー効率の面では明らかに「冷熱」に分があります。
ホタルの発光にほとんど熱が生じないのも、エネルギー効率のいい発光方法をとっているからです。
もとい、生物の場合自身の体内で発熱すると非常に危険であるため、
何万年という時間をかけて、このように効率のよい発光方法を生み出したのです。
なんとも素晴らしい進化の過程です。



3.ホタルの発光について

3−1.ルシフェリン・ルシフェラーゼ・ATPとは?

さてここからは、ホタルの発光の仕組みについてお話していくことにします。
専門的な用語もいくつか出てきますので、まずはその用語の解説から始めたいと思います。
ホタルの発光を語る上で欠かせない用語は、
「ルシフェリン」・「ルシフェラーゼ」・「ATP」です。
まずはこの3つの単語のご説明からしていくことにしましょう。

・ルシフェリン[luciferin]
ルシフェリンとは、ホタルの尻にある透明な発光細胞で生成される発光物質です。
「明けの明星」を意味する「ルシファー」が語源となっています。
ホタルやホタルイカにおいて生物生成が可能で、人工的に大量生成することも可能な物質です。
ホタルルシフェリンの化学式は「C11H7N2O3S2」で、
その構造はこのようになっています。

・ルシフェラーゼ[luciferase]
ルシフェラーゼとは、ホタルが生成可能な酵素(注1)で、触媒として働き、酸化反応を促進させます。
ルシフェラーゼは、近年までホタルの体内でしか生成できず、その回収のために多くのホタルが犠牲になりましたが、
(ルシフェラーゼ1g作るのに10万匹のホタルが必要だった)
遺伝子組み換え技術を活用し、ホタルからルシフェラーゼの遺伝子のコピーを手に入れ、大腸菌の遺伝子につなぎました。
大腸菌は1日で30万倍に増えるため、ルシフェラーゼの人工的に大量生産することが可能になりました。
ちなみに、ホタルが生成するルシフェラーゼと、ウミホタルが生成するルシフェラーゼは同じ名を持ちながらも、
その構造には違いがあり、それが発光色の違いになっています。
ホタルの中においても種類によって光る強度や色調が異なることがありますが、
これも、ホタルの種類によってルシフェラーゼを生成するための遺伝子が異なり、
違う構造のルシフェラーゼが生成されることが原因となっています。
しかし、ルシフェラーゼ自身は、分子量5万のたんぱく質であることが分かっているだけで、
その化学式や構造は、いまだ詳しくは解明されていません。

注1:酵素
酵素とは生物が生成される触媒のことで、化学反応を促進したり抑制させる働きを持つ高分子化合物の総称。
タンパク質のみ、もしくはタンパク質と低分子化合物とから構成されている。
1つの酵素が触媒となる反応は1種のみで、他の反応の触媒となることはない。
一般的に、その生物の体内の温度付近で最も活性化する。
酵素は、「酵素が作用する物質(基質)の語根+アーゼ(aze)」で呼ばれることが多く、
プロテイン(タンパク質)に作用する酵素はプロテアーゼ、
ラクターゼは、ラクトース(乳糖)に作用する酵素であることを意味している。
酵素については、こちらにも詳しい解説がありますので参考にしてください。

・ATP[Adenosine Tri Phosphate]
アデノシン三リン酸という生物共通のエネルギー源です。
アデノシン(C10H13N5O4)にリン酸イオン(PO4(+3))が結合した物質で、
全ての動物の体内エネルギーの受け渡しにはこのATPが作用しているため、「エネルギーの通貨」と呼ばれています。
呼吸によって発生するエネルギーも、ATPが作用した化学エネルギーです。
ATPは哺乳類骨格筋100gあたりに0.4g程度存在し、その化学式は「C10H16N5O13P3」となっていて、
構造は以下のようになっています。



3−2.ホタルの発光の仕組み

さて、その具体的な発光の仕組みをご説明いたしますと、

発光物質ルシフェリンは、酵素ルシフェラーゼマグネシウムイオンを触媒として、
ATPと反応し、ATPをアデノシン一リン酸(adenosine mono phosphate:AMP)リン酸(P)とに分けます。
このAMPはルシフェリンの持つカルボキシル基(COOH)に結合し、ルシフェリン-AMPという物質に変化します。
その後、さらに酸素ルシフェラーゼが反応してペルオキシドアニオンを生成した後、
このAMPを切り離し、ルシフェリンのカルボキシル基がカルボニル基(CO)となり、ジオキセタン誘導体となります。
ここまでは基底状態ですが、二酸化炭素(CO2)を放出することで、励起状態のオキシルシフェリンになります。
このオキシルシフェリン中の酸素原子が励起状態なっているため、
酸素原子中の1つの電子は非常に高いエネルギーを持っています。

そのため、基底状態に戻る際にはエネルギーの差分として光が発生するという仕組みになっています。

発光までの物質変化を図に書きますと、このようになります。

ご理解いただけたでしょうか…?
ちなみに…、
私は分からない部分が多々ありますが、
それほど複雑な仕組みで発光している、ということだけ覚えておいてください。
「ルシフェリン」「ルシフェラーゼ」「ATP」が反応して発光している
ということをご理解いただければ、十分だと思います。



3−3.発光の意図とその利用方法

そもそも、ホタルはなぜ発光するのでしょうか?
まず、これら発光までの一連の反応は、酸素と反応しているため、物質の酸化反応によって発光しています。
勿論、ホタルは呼吸によって酸素を得ているので、その発光間隔は呼吸のリズムに合った発光となります。
私が考えるに、東日本と西日本のゲンジボタルの発光間隔が異なったり、ホタルの種によって発光間隔が異なる理由は、
それぞれの呼吸のリズムが異なるため
だと思います。

で、ホタルが発光する理由として、
一般的には、発光によって相手を見つける生殖行動のためだと考えられています。
しかし、生殖行動に関係のない、幼虫時にしか発光しない種も存在しています。
ある種のホタルからは強い毒性が検出されているそうで、捕食者への警戒色として捉えることも出来ます。
おそらく、幼虫の時期にしか光らない種は、
触角が発達し昼の間も活動可能となり、発光機能が退化していったものだと考えられます。
幼虫期に発光しているのは、その名残(ルシフェラーゼなどの生成物)がいまだに体内に存在するためで、
発光は警戒色としての機能も果たすことができるため、呼吸をする惰性で発光している…。
そんな風に考えるのは多少乱暴かもしれませんが、そんな予想は成り立ちます。
実際に、成虫になっても発光しないホタルは目が小さく触角が巨大です。
さらに、如何に大量の卵を抱えるかということを優先し進化していった種のメスに至っては、
成虫は蛹と同じ形、全く飛べないどころか、成虫の姿になることをやめた種も存在するそうです。
客観的に見れば、進化の過程で、発光機能を有した方が繁殖に有利だと考えた種の方が圧倒的に少数派になってきたということです。
発光に必要なエネルギーと、他の昆虫類の進化を考えれば、それも納得できる過程でしょう。
だからこそ、発光する種のホタルの存在は貴重だと思います。(他の種がそうじゃないといっているわけではありませんが)

現在では、ホタルの発光技術に関して様々な分野で研究が行なわれています。
1980年代にカルフォルニア大学の研究チームが、ホタルからルシフェラーゼ遺伝子を取り出し、
タバコの葉に移植したところ、光るタバコの苗を作り出しました。
このようにホタルの発光遺伝子を他の生物に移植することで、他の生物を発光させることが可能です。
そんな研究をされている方の作品は、科学芸術的探訪:第3回で紹介されています。
光るネズミ…、光るウサギ…。
倫理的にどうかという話はこの際抜きにさせてもらえば、純粋にすごいです!
そうなると、発光するヒトも作成可能なんだろうなぁ…、と思ってしまいます。
ちなみに、ルシフェラーゼの人工生産・量産化に初めて成功したのは、しょうゆメーカーでおなじみのキッコーマンで、
ホタルたちにとっては神様的存在となっていることでしょう。(実験の過程で云々ということは置いておいて)
まぁ、しょうゆ会社がなぜそんなことやってるの…?って疑問に思われる方もいらっしゃるかと思います。
たぶん、「ハッコウ」つながりだから。
そのキッコーマンは、なぜホタルのルシフェラーゼの人工生成に挑んでいたかというと、
新たな微生物汚染検査システムを確立し、細菌や微生物を検出して、それによる二次汚染を防ぐためです。
そもそもATPは全生物共通のエネルギーであるため、生物であるならばどの生物でも持っています。
それを利用し、ルシフェリン・ルシフェラーゼと反応させて発光させ、その有無・量を検査する装置を開発したのです。
この装置の開発によって、食品や食品製造過程における効果的な微生物汚染検査が可能になりました。
また、この装置はNASAの火星無人探査機「スピリット」が、地球から微生物を持ち込まないよう検査する際にも使用されました。
このようにホタルの発光原理は、様々な分野で利用されています。



以上、足早にホタルの発光にスポットを当ててご紹介してきましたが、
途中、非常に難解な化学反応を相手にするため、その原理を理解するのは困難だったと思います。
とにかく、「ルシフェリン」「ルシフェラーゼ」「ATP」が関与しているのだということを理解するだけで十分ですが、
ホタルの発光をご覧になった際には是非、あれらの化学反応式を思い出してみてください。
きっと、ホタルを見る目が変わってくるはずです。
ホタルを敬う気持ちが湧いてくるかも…。

とりあえずは、ホタルを「頭」で呼ぶことから始めてみましょう! (廃案)
それではまた次回!

参考文献
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