蛭・ヒル・ひる編:愉「貝」な仲間たち!

製作:前橋工科大学大学院 阿部 泰宜

第九回は、蛭・ヒル・ひる編として、蛭をご紹介していきます。

  

学 名 Erpobdella lineata
和 名 シマイシビル
環形動物門
ヒル綱
喉蛭(ノドビル)目 イシビル科

さて、今回ご紹介する生き物は『ヒル』です。

……。

とうとう、貝類どころか、軟体動物門ですらなくなってしまいました…。
分類上はかなり遠いです。
しかし、なんとなく近しいところがあるような気がしますね。
池や川などでは、貝と共存していますし。(食う食われるの関係かも)
とにかく…、
貝を語る上では、なくてはならない存在のような気がするのです。
というわけで、ヒルについて様々調べてみました。

ヒルは『環形動物門』に分類されています。
環形動物門は、ミミズが分類される『貧毛綱』、ゴカイが分類される『多毛綱』、
そして、ヒルが分類される『ヒル綱』で構成されています。

つまり、分類上ヒルはミミズに近い生物であるということです。
で、さらにヒル綱は、

に分類されます。

ヒルの種類は、日本では約60種、世界では約500種ほど確認されていて、
陸生、淡水生、海水生など、種によって異なる環境に生息していますが、そのほとんどが淡水生です。
体長は5cm〜12cm程で、体節数(注1)は34です。
ヒルの呼吸は皮膚呼吸によって行われています。
体の前後には吸盤があり、この吸盤を駆使して移動を行ないます。(水棲種は、泳いで移動することも可能です)

また、ヒル全種がサカマキガイのように同時的雌雄同体で、卵生です。
交尾の形態は種によって異なり、
吻蛭目のウオビルなどの場合には、精包を相手の体の表面に付着させ、
精子が皮膚から侵入し、体腔の間隙を縫う様に移動して卵巣に達するという交尾形態をとり、
顎蛭目のヤマビルやチスイビルの場合には、陰茎の挿入によって交尾が行なわれているようです。
受精後、環帯(注2)と呼ばれる器官で卵嚢(注3)を形成し産卵します。
ヒルは、カエルでいうオタマジャクシのような幼生期はなく、
成体そのままの姿で孵化する『直達発生型』と呼ばれる形態をとっています。

『シマイシビル』の場合、産卵は春から秋にかけて行なわれ、
交尾から、2〜7日後に直径3.5〜7.0mmの扁平な楕円形の卵嚢を水底の石の上などに産み付けます。
1つの卵嚢には5〜10個ほどの卵が入っていて、約4週間で孵化します。
『ヤマビル』の場合だと、産卵から孵化までは約1ヵ月程かかり、孵化から1週間経つと吸血が可能になるそうです。
1個体当たりの平均生涯産卵回数は2回で、1回の産卵で平均3個の卵嚢を産み付け、1つの卵嚢には1〜8個の卵が入っています。
寿命は平均で2〜3年、長いものだと5年間も生存可能なようです。

蛭の生態・生活史に関しては、未知な部分が多いため、今後更なる研究が必要だと思われます。
ただ、既往の研究結果から、産卵数が少ないこと、1個体が比較的長生きであることなどの知見が得られているため、
ヒルは、強い生命力を持ち、生存性に長けた生物であると考えられます。

実際に私がヒルを飼育した経験から見ても、非常に強い耐性を持っているといえます。

また、ヒルが持つ血管系は、
貝類が属する『軟体動物門』や昆虫が属する『節足動物門』が持つ『開放血管系(注4)』とは異なり、
『環形動物門』は『閉鎖血管系』という、哺乳類と同じ血管系を持っています。
さらに、多くの種は呼吸色素として『ヘモグロビン』を持っているため、赤い血液が循環していることも特徴の1つです。
…つまり、意外なことに、
ヒルとヒトは同じ酸素供給システムを持っていることになります。

そんなヒルは、一般的に、動物の血を吸う害虫として扱われ嫌われています。
しかし、ヒル全種が吸血するわけではなく、しかもその吸血対象のほとんどは貝や魚であり、
人畜に直接害を及ぼす種は、日本で確認されている60種のうち3種のみ
と、意外と少ないことはあまり知られていません。
吸血しない多くのヒルは、ミミズ等を捕食することで栄養を得ています。
吸血性のヒルとして有名なのが、先にご紹介した『ヤマビル』と『チスイビル』です。
ヤマビルは陸生のヒルで、北海道を除く日本全土に分布しています。
動物の呼気(二酸化炭素)や足音、体温などで寄主の接近を感知し、
体の前後にある吸盤を使い尺取虫のように移動します。
木の上に潜み、寄主が近づくと木から落下して吸い付くこともあります。
約1時間程かけて吸血し、吸血前の平均4〜5倍の体重になるまで血を吸います。
一方のチスイビルは、水生のヒルで、田んぼなどでよく見かける緑色をしたヒルです。
日本全土に分布しているヒルで、田舎育ちの人なら一度は見たことがあるのではないでしょうか。(私はあります)
こちらにチスイビルの動画を載せていらっしゃるHPをご紹介させていただきますので、参考にしてください。

ヒルの吸血方法には2種類あり、
ノコギリ状の歯でY字状の傷をつけ寄主の血を吸う『顎蛭型』と、
鋭い吻(ふん)を口から出し、これを寄主に突き刺して血を吸う『吻蛭型』があります。
分類同様、ヤマビルやチスイビルの吸血方法は『顎蛭型』に当たり、
ヒラタビルやハバヒロビルの吸血方法は『吻蛭型』となります。

さて、実際にヒルが動物から血を吸う場合には、ヒルの唾液に含まれる麻酔効果がある物質や、
『ヒルジン』(注5)・『ヘパリン』と呼ばれる血を固まりにくくする物質を、寄主に注入してから血を吸い始めます。
そのため、ヒルに吸血されていても痛みがないため、血を吸われていることにも気づかないことがあり、
傷口からの出血はなかなか止まらないため、「気づいたら血だらけに!」という状況もよくあるそうです。

ヒルに吸血されたときの対処法として、
ヒルを除去する場合には、無理に引っ張って取ろうとするのではなく、
・ライターやタバコの火を押しつける。
・塩水や酢、アルコールを垂らす。
などの方法によって、ヒルが自発的に離れる方法をとります。
そして、ヒルが離れた後は、傷口の洗浄が必要です。
ヒル自体に毒性はないので、血を吸い出す必要はありません。
しかし、抗凝血物質によって血が止まりにくくなっているので、
水などでその物質を洗い流し、ガーゼやハンカチで圧迫止血すると早めに止血できます。
また、現在までにヒルの吸血による病原菌の感染は報告されていませんが、
感染防止のために、傷口を念入りに消毒した方が賢明です。

そんなヒルの『吸血性』とその『抗血液凝固成分』が注目され、医療用に使われているヒルもいます。
ヨーロッパでは古くから瀉血(しゃけつ)療法(注6)の道具として利用され、
20世紀の初め頃までフランスやドイツなどで盛んに用いられていました。
生きているヒルを患部に当て、吸血させるという治療方法で、脳卒中や緑内障、肺結核などの治療に使われていました。
また、事故等で切断してしまった手や脚の接合手術後、接合部分の傷口にヒルを当て、血を吸ってもらい、
接合した部分の血液循環を促進させ、壊死を防ぐという療法も存在していました。

しかし、20世紀初めに抗生物質が登場してからは、こうしたヒルを用いた療法はあまりに不衛生で原始的であると考えられ、
ヒルを使った治療はあまり行なわれなくなりましたが、
近年、ヒルを用いた瀉血治療は、傷口からの細菌の感染防止に有効であることを科学的に証明され、
ヒルジン以外にも疼痛緩和に有効な成分がヒルの唾液に含まれていることが明らかになるなど、
ヒルを用いた治療法が注目され始めています。
やはり、ヒルを直接治療に用いるのには抵抗がありますが、(実際に用いる場合には、衛生管理の行き届いたヒルが使用されています)
ヒルが持つ有効成分を取り出し、培養して、新たな薬剤の開発が行なわれているようです。
また、漢方薬の世界においては、ヒルを乾燥したものは水蛭(スイテツ)と呼ばれ、
月経障害・子宮筋腫・打撲傷などに効能があるとされ、古くから用いられていました。

ところで、ヒルの英語名リーチ(Leech)は、もともと医者の意味であり、
チスイビルの学名(Hirudo)もラテン語で医者を意味しています。

このように、ヒルは古くから治療の現場で用いられてきたのです。


<その他のヒルの紹介>
キバビル:
陸生のヒルで、暗褐色で口に3本の牙を持ちますが、吸血せず、ミミズなどをを捕食しています。
愛好家の間ではなかなかの人気種らしく、1匹4500円で取引されているらしいです…。

ウマビル:
淡水性のヒルで、体はやや扁平で100〜150mmと割と大型のヒルです。背面には5条の縦縞があります。
3本の牙を持ちますが、ヒトの皮膚を傷つけて吸血する能力はありません。
チスイビルと共に『水姪』として漢方薬などに使われています。

カニビル:
海水に生息するヒルで、
その名前から、カニに寄生しているヒルだと思われがちですが、成虫がカニに寄生している事実はなく、
魚類などに寄生して体液を吸って栄養を得ています。
単に、カニビルが生息する海底は柔らかな泥質に覆われているため、
安定した産卵床を求めてカニの甲羅に産卵することから名づけられました。
カニビルの卵は、そのカニが輸入物か国産物かを見極める目印にもなり、
甲羅にカニビルの卵が付いていれば国産物とされています。
卵の付いたカニは、食品衛生上の問題は全くなく、
むしろ、カニビルが卵を産みつけるカニの甲羅は硬く、良いカニということで「カニの勲章」とも言われています。

ハナヒル:
沢の石の下などに生息し、水を飲みに来た動物の咽頭や鼻腔、眼球に寄生するヒルです。
寄生される場所によっては、気道を塞がれてしまい死に至ってしまうなど、かなり厄介な種となっています。
体内に寄生された場合には、外科的に取り除くしかないため、
沢の水で顔を洗ったり、飲んだりする場合には、コップに水を取りヒルがいるかどうかを確認しなければいけません。

さて、『コウガイビル』という生物がいることをご存知でしょうか。
名前に「ヒル」と入っていますが、ヒルの仲間ではありません。
コウガイビルは、『扁形動物門』に分類され『プラナリア(ウズムシ)』の仲間となります。
そのため、プラナリアなどと同じように、体を切っても再生し、数を増やすことができます。
長さが1mを越えるものもいるなど、かなり大型の生物です。
吸血能力はなく、ナメクジなどを捕食していますが、外見がかなりキモいので注意が必要です。
参考HP



※(注1)体節:
動物体の前後軸に沿って、一定の間隔で繰り返される構造上の単位。
環形動物のように同じ形のものが繰り返される同規体節と、
節足動物のように各体節が部分的に変形している異規体節に分けられる。環節。
ちなみに、軟体動物には存在しない。


※(注2)環帯:
ミミズやヒル類で、体の前方の生殖孔付近にある、他の部分とは色が異なり、膨れあがった帯状の部分。
分泌腺をなす。


※(注3)卵嚢:
軟体動物の、卵が入っている袋。


※(注4)開放血管系:
節足動物・軟体動物などに見られる血液循環の一型。
毛細血管を欠き、血管系は末端が開放され、動脈中の血液はいったん組織間へ流れ出てから静脈に集まる。
つまり、体中の組織は血液で満たされている。
⇔閉鎖血管系:
脊椎動物・環形動物などにみられる血液循環の一型。
心臓から出た一本の血管が毛細血管系へと分岐し、再び収斂(しゅうれん)して一本の静脈となって心臓へもどる血管系。
血液の出口はなく、血漿の一部とリンパ球などは血管壁から滲出するが、赤血球と血漿の大部分は血管の中だけを循環する。
<それぞれの血管系の特徴に関する考察>:
開放血管系の場合には、その構造が簡潔である代わりに、
皮膚組織を傷つけられ流血してしまうと、止血しづらいという短所を持っている。
一方の閉鎖血管系の場合には、血管を体中に張り巡らせる手間は掛かるが、
もし流血した場合であっても、毛細血管を収縮し血液の流れを止めることで、スムーズに止血することが可能である。
そういった考察を踏まえると、開放血管系を持つ動物の多くが殻を持つ動物であることも注目すべきポイントといえる。


※(注5)ヒルジン
ヘパリンと構造上相同性がなく、腎排泄であり、腎機能低下患者への投与には注意を要する。
また分子量が大きいため抗原性がありアナフィラキシーショックの頻度が高く、本邦では使用できない。


※(注6)瀉血療法:
治療の目的で、患者の静脈血の一部を体外に除去すること。


参考文献
川の生物図典 財団法人リバーフロント整備センター編
http://www.hiru.jp/
http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%C2%CE%C0%E1&kind=jn&mode=0
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http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%CD%F1%C7%B9&kind=jn&mode=0
http://zoo2.zool.kyoto-u.ac.jp/ethol/
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http://www2s.biglobe.ne.jp/~glosspho/okusan/sakana/hiru/glossiphonia.html

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